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経済学は世の中をどのように変えてきたのか

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石橋湛山賞は、社会科学に関する学術賞の中で最も権威ある賞の一つである。
この賞を受賞することは、研究者として第一級の評価を受けた、と言って良いだろう。
若田部昌澄早稲田大学教授はこの賞を2010年度に受賞した新進気鋭の研究者である。

 

その若田部氏が立て続けに、2冊の新書を出した。

『本当の経済の話をしよう』(ちくま新書、2012年8月10日発行)

『もうダマされないための経済学講義』(光文社新書、2012年9月20日発行)

タイトルをみても分かるように「わかりやすさ」を心がけて書かれた好著である。
経済学が苦手、もしくは堅くてとっつきにくいと考えている人にとって、とても役に立つ2冊となっている。
高校時代に「地理」「歴史」しか選択しておらず「政治経済」を学んでこなかった方に、特におすすめだ。

 

まず『もうダマされないための経済学講義』を手に取ってみよう。
この本は、経済学の基本のところを普段着使いの言葉で説明してくれる。だから、スッと心に入る。

 

例えばグラフや表を示しながら、

貧困と痛みには関係があることを示しています。同様に「悲しみ」や「怒り」などの負の感情も、マイナスの相関を示しています。逆に、「微笑む・大いに笑う」や「愛」といった楽しい感情は正の相関を示しています。』(本文より抜粋)

と、いったふうに。

 

私たちの日々の心の動きとは、経済と密接な関係を示しているのだ、と理解できるだろう。
それは著者が、一人でも多くの人に経済学の大切さを理解してほしい、と考えているからだ。
著者の思いが、人々の心の痛みを和らげたいという優しい気持ちにあるからかもしれない。

 

「インセンティブ」や「トレード・オフ」という基本的用語の解説を通じて、経済学とは「心の問題と極めて密接に関係した学問」なのだと気づかされる。
そして、これらの基本的用語の理解を促し、経済の考え方をもって歴史的事実をあざやかに分析してくれる。

 

例えば、歴史の教科書で有名な新井白石が、なぜ失脚したのか、という理由が明らかになる。もし、白石が有能な政治家であれば、失脚などするはずがない。彼は政策で大失敗したのである。

 

『もうダマされないための経済学講義』を読み進めることで、経済学的な物事の見方を与えてくれると同時に、歴史をどのように理解するかという思考法を手に入れることができるのだ。経済学という学問ができたことによって、人類は結構、賢くなってきたという実感ももてるだろう。

 

著者自身も下記のように述べている。

逆に言えば、戦争や植民主義、帝国主義を克服してきた人間というのは、たいしたものだと思います。それらを克服できれば、みんなが豊かになることが可能なのです。』(本文より抜粋)

 

もう一冊の『本当の経済の話をしよう』は、栗原裕一郎氏との対談本である。こちらは、最近話題になった出来事について、栗原さんが質問をし、若田部氏が解説していくというものである。
原発と電力料金の問題やTPPと食料自給率の問題なども、鮮やかに解説されている。
ただ、こちらは話題が多岐にわたるため、初学者というより、経済学に少し親しんだ人がさらに理解を進めるのに適した本だ。

 

2冊セットで読むことが大切だ。

そうすることで、世の中の動きや歴史の変動が、単なる偶然の積み重ねではなく、経済変化(景気)が基盤にあって動いていると理解できるだろう。それは同時に、経済変動や景気の先読みができると、社会変化も見えてくるということでもある。

 

秋の夜長に、手にとってほしい。

経済学ってやつは使えるやつで、随分と世の中を良くしてきたんだな、と分かっていただけるのではないだろうか。

そして、ぜひ、クールに今の日本を分析してみてほしい。


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