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埋蔵金探しは終わらない

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 日本政府は埋蔵金を隠し持っている。こんな都市伝説めいた話がスタートしたのは、小泉純一郎首相時代だからもう10年近く前だ。発端は当時、小泉政権のブレーンとして活躍していた高橋洋一(元内閣参事官、嘉悦大学教授)が、構造改革をすすめるために、日本政府のバランスシートを精査していたときだ。日本というのは不思議な国で、これだけ「財政赤字が深刻だ」とか「日本もギリシャみたいな財政危機になる」と叫び続けているにもかかわらず、実際に日本の財政の実情はどうなっているのか、その全貌を一目でわかるようなものが長い間なかった。高橋さんはそれを民間並みのバランスシートを作って明らかにしようとしたわけだ。

 日本政府のバランスシートを作成する過程で、高橋さんは特別会計に興味深い事実に気が付いた。特別会計というのは、マスコミや国会などで熱心に議論されるのが一般会計の方とすれば、その横でひっそりと毎回処理されている予算の一部だ。「特別」とついているが、実は一般会計より巨額だ。一般会計はだいたい250兆円ほど、特別会計は400兆円を超す規模である。それがなぜかマスコミも国会もまともに議論することなく予算を通過してしまうのがいまの日本だ。

 ところでこの一般会計の方はだいたい300兆円以上の「赤字」、特別会計の方は40兆円ぐらい「黒字」だ。この「黒字」のことを、正確にいうと資産負債超過という。いわゆる「埋蔵金」というのは、この資産負債超過をいう。高橋さんはこの特別会計の資産負債超過=埋蔵金の存在をはっきりと問題意識をもって気が付いた先駆者である。

 この特別会計には、さまざまな特別財源によって構成されている。例えば、労働保険特別会計もその特別財源のひとつだ。この労働保険特別会計というのは、会社勤めであれば給与の一部を雇用保険料として毎月のように収めているのでわかるだろう。この雇用保険料がこの労働保険特別会計の特別財源の主たるものだ。

 特別会計自体はこのような特殊な特別会計がいくつも集まって構成されている。道路や空港、そして外国為替の運用だとか、そんなものが複雑に集合してできている。だが、全体でみればおおざっぱにいってさきほど書いたように40兆円ぐらいのお金を国民から「とりすぎている」のだ。

 労働保険特別会計は、普通の人にも主たる財源が、雇用保険なのでなじみ深いのでここに焦点をあてよう。この会計でも毎年7兆円ほどの黒字(埋蔵金)が発生している。イメージとしてはこんな感じだ。いまお風呂を考える。蛇口から水が流れていて、また排水穴も開いている。でもお風呂に入るお金の方が流れ出す水よりも多いので、絶えず風呂桶には一定の水がたまっている状態だ。このとき蛇口や排水穴から出たり入ったりしている水の量を「フロー」という。お風呂のフローではない(おやじギャクだw)。また風呂桶にたまっている水のことを「ストック」ともいう。この関係はあとでまた考えるのでよく理解しておいてほしい。

 さて年々ざっと15兆円の水が流れてきて、8兆円の水が出ていく。これがフローの関係。そして引き算すると毎年7兆円ぐらい風呂にたまったままになる。これはストック。このストックでみて水がたまった状態が埋蔵金のイメージになる。

 なんでこんなに水がたまってしまうのだろうか? その答えは簡単だ。私たちから雇用保険をとりすぎているからだ。失業が深刻といわれながらも、実際には私たちはかなり過大に毎月雇用保険を支払っていることになる。しかしそれが国会で問題になることはない。

 これも不思議なことに思える。でも経済学からいうと答えは簡単。だってこの連載でも何度も書いているけど、人間の行動を最も大きく規制しているのは金銭的なインセンティブだからだ。つまり余計にとるには金銭的な理由がある。

 例えばこの労働保険特別会計の使途を精査してみると面白いことに気が付く。例えば、独立行政法人雇用能力開発機構という国の関連組織がある。これは簡単にいうと、民間でも代替可能な職業訓練などを行う名目で存続していたものだ。しかもこの特殊法人は全国にさまざまなムダな箱ものをいっぱい運営していた。もちろんその原資は私たちの払う雇用保険料。かなり前から問題視されてその廃止が検討されてきた。ムダなお金をなくすことで、雇用保険料を低下させればそれにこしたことはないだろう。実際に平成23年の年末で同機構は廃止された。でも全然、私たちの雇用保険料は目立って下がらない(多少は料率の見直しはあったけど)。

 なんでだろう。その答えもこの労働保険特別会計をみるとよくわかる。実はこの機構がやってた業務の大半は、独立行政法人高齢者・障害者。求職者雇用機構に移管されている。そしてこの機構の予算は、数年前に比べると、ちょうど雇用能力開発機構がもらってたぐらいの金額にまで急膨張している。つまり官僚のよくやる手口だけど、官僚組織の「廃止」というのは、ほとんど「名前変えて存続」ということだ。

 で、話を戻すと、なんで存続可能かというと、風呂にたまるだけ水が豊富だからだ。つまり埋蔵金がその存続の合理的な背景をなしている。やれやれ。

埋蔵金を発掘していくと日本のおかしなところがかなりわかる。

(初出『電気と工事』9月号を一部改変)


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